『ちーちゃんはちょっと足りない』
阿部共実さんの、『ちーちゃんはちょっと足りない』。
僕が一番好きな漫画だ。
計算ができない、勉強ができない、常識がない……、そんないろいろ足りない中学生「ちーちゃん」を巡るお話。今回はこの漫画の紹介をしていく。
*話が全てわかるほどのネタバレは書かないようにしましたが、多少のネタバレは含まれます。ご注意ください。*
阿部共実さんの漫画と出会ったきっかけは最新作の『月曜日の友達』の2巻。「子ども」から抜け出すことができない中学生の主人公水谷茜が、ちょっと変わった男子中学生月野透と出会い、認め合い、ときには傷つけ合い、成長していく。描かれるのは、青春時代ならではの満たされなさや自己嫌悪。阿部共実さんの描く漫画のテーマはそういったものが多い。この『ちーちゃんはちょっと足りない』も、満たされなさを描いたものだ。
漫画は全8話からなる。
物語の中心は、南山千恵ことちーちゃん、小林ナツ、旭の仲良し3人組。第1話、第2話ではコメディチックに3人の日常が面白おかしく描かれる。
第3話は妹思いの千恵の姉、志恵と千恵がショッピングモールへ靴を買いに行く話。南山家は恐らく母子家庭で、厳しい家計のやりくりの中で生活をしているようだ。しっかり者の志恵だが、時折見え隠れする「ちょっと我慢している」描写がつらい。
第4話からは、主にナツ視点で話が進んでいく。楽しそうに見えた中学生活だったが……。徐々に雲行きが怪しくなっていく。
ナツも母子家庭で、母親はパートでいつも家にいない。そんな家庭環境で育ったナツも「満たされなさ」を抱えていた。
第5話では、クラスである事件が起こる。この事件をきっかけにナツの「満たされなさ」は加速していくことになる。
第6話は事件を経てのナツの心境の変化に注目。自己嫌悪や嫉妬、満たされない気持ちから生まれた醜い感情が次々と溢れ出てくる。
下の画像のナツの気持ちは自分も抱いたことがあり、正直、わかる、同情してしまう。
第7話。この回で事件が収束する。力強い旭の描写は鳥肌もの。それに対して泣き虫千恵が心の内を打ち明けるシーンが涙を誘う。
最終話の第8話では、千恵が行く先を告げずにどこかへ行ってしまう。ナツが千恵を探しながら負の感情を巡らせる。
街中で楽しそうに友達と過ごす旭を見つけたときのナツのセリフが個人的にこの漫画で一番好き。ここの描写も読むたびにドキドキする。
千恵の抱く「満たされなさ」の先とナツの抱く「満たされなさ」の先。二つが重なり合うクライマックスは必見。
簡単にいくつかのシーンも交えながら『ちーちゃんはちょっと足りない』を紹介してきた。(直撮りで申し訳ない……)
少し暗いテーマを描いた作品ではあるが、ナツや千恵が心の底から吐き出す「満たされない」思いに心を動かさずにはいられない。この漫画で描かれる自己嫌悪や嫉妬といった醜い感情は、満たされなさを抱えた経験のある人ならば、抱いたことがある感情なのではないだろうか。そういった醜い感情に全力でぶつかり、思い切って表現されている点が、この作品の醍醐味であろう。
「満たされなさ」の中で迷いながら、苦しみながら生きている姿に、あなたは何を感じるだろうか。気になった方は、ぜひ手に取って読んでみてほしい。
(無粋な話だが、ブックオフや中古漫画屋で並んでいるところも多い)
(漫画のシーンを直撮りでのせてきたけど、引用の扱いでのせたつもりだし著作権は大丈夫だよね……?)